読書感想:夏目漱石 「それから」 


12月6日読了した。


前半部分の読書感想は12月2日に書いた。

あまり面白くないと、思って読んでいたが、途中から面白さに気付かされた。

夏目漱石の子供時代の惨めだったと思う生い立ちから、自分は何のために生まれ、何のために生きて行くのかという、一生続いたであろう、問題がこの小説の中にあった。



それは十一の二の冒頭に書かれてあった。

代助が黙然として、自己は何の為に此世の中に生まれて来たかを考えるのは斯う言う時であった。
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彼の考えによると、人間はある目的を以て、生まれたものではなかった。
之と反対に、生まれた人間に、始めてある目的が出来てくるのであった。

最初から客観的にある目的を拵らえて、それを人間に附着するのは、其人間の自由な活動を、既に生まれる時に奪ったと同じことになる。

だから人間の目的は、生まれた本人が、本人自身に作ったものでなければならない。けれども、如何な本人でも、之を随意に作る事は出来ない。
自己存在の目的は、自己存在の経過が既にこれを天下に向かって発表したと同意だからである。


一流の大学を卒業し、仕事もせず、親から月々の生活費を毎月もらい、一軒家をあてがわれ、世話をやく、ばあやと書生を置き、心の赴くままに生活をしている。

これがこの小説の主人公である、「代助」である。

親や兄、兄嫁から何度も結婚をせよと紹介されても断り続けている。

彼の心を動かしたのは、関西に赴任していた友人とその妻「美千代」。

友人の妻「美千代」は代助が仲をとりもち、友人と結婚させた。

事情があって関西から東京に戻ってきた、友人夫婦と交流するうちに、代助は友人の妻「美千代」を愛していることに気付く。

はじめて、守らなければいけない女性「美千代」に出会い、思いがけない行動を起こす。

代助のやらねばならない、「目的」が出来た。

代助は「美千代」に好きだったことを告白した。そして「美千代」の気持ちを確認した。


代助は義理の姉、梅子にも話し、親、長井得にも、進める結婚は断ると話した。

そこで父、得は呼び留めて、「己の方でも、もう御前の世話はせんから」と言った。

しかし、それでも代助は「美千代」をあきらめることなく、友人平岡に美千代と別れてくれ、そして美千代を私にくれと。

平岡は言う。美千代は今病気だから、病気が治り元気になったらお前に渡そうと。
もう御前に会う時は美千代が元気になって渡す時だ。二度と美千代にも自分にも会いに来るなと絶交を言い渡された。

その平岡は長い顛末書を代助の親元に送った。

それを読んだ父は長男誠吾を代助の所にやり、その手紙の中味が本当かどうかを確かめさせた。

全て真実と代助の言葉を聞いた兄誠吾は帰りその事を親に伝えた。

それから、親兄弟から完全なる勘当を言い渡された。

代助は生きるために、仕事をさがしにいくと、暑い街に出て行った。


代助は「美千代」と今後一生会うことが出来ないだろう。
そして、自分が生きるために、仕事をしなければいけない。

つまり、親から金をもらい、家をあてがわれ、世話するばあやもある、悠々自適な生活を捨てた。
彼の言う、ある目的、「美千代」一緒になりたい、「美千代」を守りたいという、目的の為に、全てを失ったことを知った。
混乱しぐるぐる回転する、頭を持ちながら、仕事をさがしに街にさまよい出た。

たぶんだが、仕事は無いだろう。

こんな男を雇う所は100年前だって、今だって有る筈がない。

しかし、雇う所でも全てが人を見る目が肥えているわけではない。

諦めず10カ所、20カ所、30カ所、限りなく、そして選り好みせず、就職活動をすればみつかるかも。


自立して生活をしなければ、生きなければ、稼がなければ、守るべき、愛する「美千代」の為、そして自分の為、仕事をせねば。

と、思った、「それから」の代助の人生が少しだけだが、心配で気になる。

続編を読みたいが、もう夏目漱石はいない。


しからば

次は前期三部作の一つ「門」を読もう。





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