1500メートルを超える巨大な建造物の屋根の下を歩く。
蝉の亡きがらが、いくつもいくつも横たわっている。
つい先ほど、横になった蝉もあった。
触ると、ぶるっと震えて、飛び立って行った。
最後の力を振り絞ったんだろう。
鳥にかじられたような亡きがらもあった。
毎年繰り返される、自然のいとなみだ。
埋め立てた、こんな島になんで蝉がこれほど多数生息しているのか、ふと疑問に思う事がある。
よっぽど環境がいいのだろう。
え、環境がいい?
良いこと無いだろうに。
巨大な空飛ぶ建造物が飛び交うこの島に、なんで好き好んで住んでいるのだ。
蝉は種にもよるが、地下に約1年から長いものでは17年も住んでいるそうだ。
地上に出てからも約一月生きていると云うのが今の定説らしい。
これから考えると、蝉は昆虫の中では本当に長生きの部類に入る。
人間は地下の生活は苦しいと思うがそうではないないらしい。
年間を通して住む所の気温はほぼ一定でそれも涼しい。
あまり天敵もおらず、快適らしいのだ。
地上に出てくると、暑さに弱いらしい。
一寸出てくる時期が遅いと、涼しくなっているので、一月以上生きている蝉もあるらしい。
空港島は蝉にとって快適な楽園かもしれない。
島だから、天敵も少ないだろうし。
特に悪さをする、人間も少ない。
家庭用のエアコンの何十倍の力を持つ冷暖房機から出てくるドレン水がコンクリートに広がる。
その上をトンボが飛んでいる。
お尻を何度も何度もそのドレン水の表面に着けては離し、着けては離しを繰り返している。
哀れを感じる。
蝉は地下地上で天寿を全うした。
しかし、トンボの卵はどうだろう。
すぐに干上がる水面に産み落とされた卵の運命はアホな私でもわかる。
本当に哀れを感じた。
この頃、私に残された、わずかな時間を考えることが多い。
生まれてきて、66歳までになった私は幸せだ。
トンボよ、君の人生は、いやトンボ生はどうなんだ。
幸せか。
トンボは答えず、隣の水面に飛び立った。
残された産み落とされた卵の哀れを私はずーと考えていた。
そして、それに比べて、自分はなんてこんなにも幸せなんだと云う思いをかみしめた。
コメント
飛ぶ元気もなさそうで、ひっくり返って何かに捕まろうともがいているのを見て
余計な事とは思いつつも、最後くらい真っ直ぐ見ろよと起こしてやった。